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感覚と思考:カーネマンと山鳥

2023.1.21 18:24

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いままで述べてきた〈感覚〉と〈思考〉という考え方は、自分の行き着いた考えではあるけど、直接的に下敷きになったいくつかの書物もある。とくに以下の二冊との関係が深い。自分のデザインに関する経験のなかで感じていたことが、これらの本で明確になった。

「ファスト&スロー」ーーあなたの意志はどのように決まるか?(カーネマン)

認知心理学者ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」は、ベストセラーなので読んだ人も多いと思う。自分は、そうかそうか、そうだそうだ、と感じながらこの本を読んだ。

副題のとおり、人の意志決定のしかたについて書かれているわけだが、それには二つのシステムが関与しているという。システム1という速い(ファスト)思考と、システム2の遅い(スロー)思考の二つである。上下二分冊でそれぞれの「システム」の働きについて、さまざまな事例がたっぷりと解説されている。

システム1

はたらき:

  • 2+2の答えを言う。
  • 二つの物体のどちらが遠くにあるのかを見て取る。
  • 空いた道路で車を運転する。

特徴:

  • 動物に共通する先天的なスキルが含まれている。
  • 完全自動ではたらき、スイッチをオフにすることはできない。

システム2

はたらき:

  • 17×24を答える。
  • 意外な音を聞いて、何の音か記憶をたどる。
  • 狭いスペースに車を停める。

特徴:

  • 自分こそが行動の主体だと考えている。
  • 働いているとき、瞳孔が拡がっている。

自分のあげている〈感覚〉と〈思考〉について、おおまかにいえば、
ファスト・システム1 →〈感覚〉
スロー・システム2 →〈思考〉
という対応になる。

右脳的/左脳的という区分もあるが、大きくはそれともシンクロしている。

とくに、システム1を「感覚」と呼ぶには少し抵抗もあるかもしれない。が〈意識〉の外からやってくるもの、という捉え方はあっていると思う。言いたいことは、意識的あるいは自覚的/意志的な「思考」の外で、つまり自分であって自分でない「何か」が、重要な判断をしている、ということであり、思考だけでは足りない、ということである。
カーネマンは認知心理学の学者であるので、誤解を避けて「感覚」や「思考」といった具体的な言葉を使わず、あえて無機質に「システム1」「システム2」としたのだろうと想像する。でも自分は素人であり、その方がイメージしやすいので、わかりやすく〈感覚〉〈思考〉とした。

この理論はより広くは、二重プロセス理論(Dual proces theory)として説明されている。

「『わかる』とはどういうことか」ーー認識の脳科学(山鳥重)

自分は今UIやUXといわれる分野の仕事をしているわけだが、1985年ころにいわゆるプロダクトデザイン分野からそちらにシフトした。シフトしてかなり初期に、自分のデザイン課題は「わかる」ということなんだと、考えついた。その後比較的最近、5年くらい前に山鳥さんのこの本を読んで大きな景色が、突然、新たに開けた。それはなかなか衝撃的体験だった。

受け取った大メッセージは、 「わかる」とは感情である、というものだ。
あることを理解しているかどうかは、テスト問題を解けるかどうかで測ることができるのかもしれない
。しかし自分の興味は、客観的な「理解」よりも、主観的な「わかる」「気づく」と自分が思うことである。そして〈わかる〉とは、感じ/〈感覚〉であるという、当たり前のことだった。
〈わかる〉とは、何かを見て「美しい」と感じることと、同じレベルのことである。

UIデザインを始めた頃、〈思考〉的な「理解」についてだけを考えていたわけだが、それはもちろん大切な視点だが、「デザイン」としてはそれだけでは足りない、〈感覚〉的な「わかる」を目指さなければいけないのではないか、と現在は考えている。

この本の冒頭は、「心の働きには大きく二つの水準があります。/ひとつは感情で、もう一つは思考です」と始まる。自分の〈思考〉と〈感覚〉はほぼ拝借している。

第4章 「わかる」にもいろいろある

  1. 全体像が「わかる」:これはスケール/大きさ/包含関係のことだろう
  2. 整理すると「わかる」:扱う観念の数を減らすことだろう
  3. 筋が通るとわかる」:ナラティブ/物語モデル、時間モデル
  4. 空間関係が「わかる」:空間モデル/空間的な問題の構造化
  5. 仕組みが「わかる」:観念同士の関係性
  6. 規則に合えば「わかる」:〈わかる〉とは規則がわかること/ルールは未来の振る舞いの予測

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